バナナでもわかる話

開設当初は計量経済学・統計学が専門の大学院生でした。今はデータを扱うお仕事をしています。統計学・経済学・投資理論・マーケティング等々に関する勉強・解説ブログ。ときどき趣味も。極力数式は使わずイメージで説明出来るよう心掛けていますが、時々暴走します。

【初心者向け】配当割引モデル

前回、結構前の記事になりますが、企業や株式の本源的価値を見極めることが出来れば、儲ける方法に結びつけることが出来るという話をしました。
bananarian.hatenablog.com


今回はとうとう本源的価値の評価方法についてやっていきます。
ただ、今回は必要な道具の準備だと思っておいてください。

現在割引価値

まず、現在割引価値について説明します。

ざっくりいうと、時間の経過を考慮した場合のお金の価値のことを現在割引価値(価格)と呼びます。

考えていただきたいのですが、今この瞬間に貰える100万円と、1年後に貰える100万円は等価でしょうか?



まず、すぐ思いつくのは次のような考え方ですね。

100万円を1年間ゆうちょの定額預金で運用すれば0.01%の利息がつくので、今この瞬間に100万円を貰った場合は、その価値が1年後に101万円になっている。よって、1年後に貰う100万円、今この瞬間に貰える100万円の方が価値が高い。



次のような考え方もあります。

今、現金を持っていないから早急に現金が必要だ。正直、今すぐに必要なため、1年後の100万円より今すぐもらえる50万円の方が価値が高い。



前者は金利を考慮した場合のお金の価値であり、後者は主観的な価値観に基づいたお金の価値です。

この両者はいずれも、「時間の経過により、お金の価値が割り引かれる」という発想をもっていますね。


では、この考え方を使って1年後に貰える100万円の価値と、今すぐもらえる100万円の今の時点での価値を比較してみましょう。

 (今すぐもらえる100万円の今の時点での価値)=100万円
 (1年後に貰える100万円)= \frac{100万円}{1+0.01}=99万100円

下の式は、要は利率分1年後の100万円の価値を割り引いて考えているわけです。


このように、将来に貰えるお金を現在の価値に換算しなおしたものを現在割引価格(現在割引価値)と呼びます。

この例は金利ですが、主観的割引率を設定すれば、主観的な価値観もモデル化出来ます。



企業に対する仮定

主に会計学問に関する領域での仮定ですが、企業は継続企業の仮定というものがおかれています。

要は、企業は基本的に、倒産することなく、永続的に企業運営を行い続けるという仮定です。


これは現実に反する仮定であるかもしれませんが、正直この仮定をおいても、おかしなモデルにはならないので、よくこの仮定が使われます。

ただ、モデルを使用する際には、このようなある種非現実的な仮定をおいたという事を頭の片隅に置いておくべきではあります。



配当割引モデル

企業が存続している間、ずーーーーーーーっと株式を持ち続けたとすると、毎期毎期ずーーーーーーーーーーっと配当がもらえますよね。

そして、この無限期間まで続いてもらえる配当の合計って、要はこの企業の株式の価値じゃないですか?

この考え方をモデル化したものが配当割引モデルです。

ただし、先ほど説明したように、1年後の配当と90年後の配当、10000年後の配当は等価ではありません。よって割り引いて、現在の価値に揃えてから計算する必要があります。


 i期に貰える配当を D_iとおくことにします。ここで割引率を kとおいてやると、ずーーーーーーーーっともらえる配当の和に関する現在割引価値は次のようになりますね。


 \sum_{i=1}^{\infty}\frac{D_i}{(1+k)^i}

これが配当割引モデルです。


いやいやいや、ずーーーーーっと先の配当がわかるわけないじゃないかって声が聞こえてきそうですし、割引率もずっと一定でいいのか?なんて声も聞こえてきそうです。

この配当割引モデルはあくまでキホンのキです。ここから少しずつ仮定を緩めていきますのでご安心ください。




配当割引モデルの理論

わかりやすいかなあと思ったので、現在割引価値の観点からこのモデルを説明しましたが、
本来であれば、先ほどの割引率 kを、期待投資収益率と考え、現在の株価から逐次的にこのモデルを導くことが出来ます。


投資家の、1期先の予想株価を P_1、現在の株価を P_0とします。この時予想される期待投資リターンは次のようになりますね。

 k =\frac{D_1+P_1-P_0}{P_0}


リターンについての話を忘れた人はこちら
bananarian.hatenablog.com




これを少し変形してやると次のようになるのは分かりますか?

 P_0=\frac{D_1}{1+k}+\frac{P_1}{1+k}…①


これと同じ操作を P_2,P_1,D_2でもやってみると

 P_1=\frac{D_2}{1+k}+\frac{P_2}{1+k}...②


①、②を合体させてやれば次のようになりますね。

 P_0=\frac{D_1}{1+k}+\frac{D_2}{(1+k)^2}+\frac{P_2}{(1+k)^2}


これを∞まで繰り返してやれば、 P_{\infty} (1+k)でいっぱい割られるためほとんどゼロになります。


故に、先ほどの式が出てきます。

 \sum_{i=1}^{\infty}\frac{D_i}{(1+k)^i}



そのため、配当割引モデルとは、投資家の期待リターンを無限期まで考えたモデルであると言うことが出来ますね。


次回はこのモデルをより実践的な形へと仮定を緩めていきます。