バナナでもわかる話

開設当初は計量経済学・統計学が専門の大学院生でした。今はデータを扱うお仕事をしています。統計学・経済学・投資理論・マーケティング等々に関する勉強・解説ブログ。ときどき趣味も。極力数式は使わずイメージで説明出来るよう心掛けていますが、時々暴走します。

ルベーグ積分入門 テレンス・タオ 演習1.1.1 (ブール閉包) の解答

ルベーグ積分の勉強のために、タオの『ルベーグ積分入門』を読み始めました。

タオの教科書は、内容が非常に明快である一方、重要な部分がほとんど演習問題に任されていて、しかもその演習問題がそこそこ難しいということで*1、自分なりに演習問題を解いてみようと思います。数学科ではないので、証明等は自己流ですので、何か穴、指摘等あればお願いしますm(__)m

目次

演習1.1.1までの概要

中身の詰まった図形を何らかの方法で測量したいというモチベーションがある時に、簡単に測量出来そうな図形を内接、又は外接させ、その図形を測量するすることで、概算しようというのは結構ありがちな方針。

しかしそもそも \mathbb{R}^dのあるあらゆる図形を測量出来るようにするのは、ちょっと難しいので、とりあえず測量しやすい集合(可測集合)に限定して測量しようという形で妥協する。

で、高校の時に教わったリーマン積分なんかを考え始めるわけだけど、リーマン積分ではジョルダン測度と呼ばれる測度を使って測量を行っていて、極限なんかを考え始めると途端にこの測度の可測範囲を外れてしまう。

そういうわけでルベーグ測度というのを考えたいという話。

で、ルベーグ測度の話を始める前にジョルダン測度の話をしておきたいが、それよりも前にもっと簡単な「基本測度」から導入を行うというわけでした。

演習1.1.1

ブール閉包(Boolean Closure)

 \mathbb{R}^dの矩形を考える。有限個の矩形の和集合として書ける \mathbb{R}^dの部分集合を基本集合(Elementary Set)と呼ぶ。この時、次のことを示せ。

 E, F \subset  \mathbb{R}^dが基本集合であれば E \cup F, E \cap F, E - F, E \Delta Fも基本集合である。


ということで示していきます。


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まず、 E, F \subset  \mathbb{R}^dが基本集合であるとは次のよう。

 B_i^*,B_j^{**}  \mathbb{R}^d上の矩形とする。ここで、 i=1,2,\cdots , n, j=1,2,\cdots , m

 E = \bigcup_{i=1}^n B_i^*

 F = \bigcup_{j=1}^m B_j^{**}

ここで E \cup F = (\bigcup_{i=1}^n B_i^*) \cup (\bigcup_{j=1}^m B_j^{**})

これは、 n+m個の矩形の和。よって定義より E \cup Fは基本集合。

更に、 E \cap F = (\bigcup_{i=1}^n B_i^*) \cap (\bigcup_{j=1}^m B_j^{**}) =\bigcup_{i=1}^n \bigcup_{j=1}^m ( B_i^* \cap B_j^{**})

矩形と矩形の共通部分は矩形の定義より矩形。よって E \cap Fは基本集合。


次に E - F =(\bigcup_{i=1}^n B_i^*) - (\bigcup_{j=1}^m B_j^{**})= \bigcap_{j=1}^{m} ((\bigcup_{i=1}^n B_i^*)-B_j^{**})
 =\bigcap_{i=1}^{n} \bigcap_{j=1}^{m} (B_i^*-B_j^{**})

矩形同士の差集合は矩形の定義より基本集合。よって (B_i^*-B_j^{**})は基本集合。
先ほど示したように基本集合の共通部分は基本集合。よって E - Fは基本集合。

最後に E \Delta F = (E-F) \cup (F-E)について、これは上に示したように基本集合の共通部分が基本集合なので明らか。



更に次も示す。

もし x \in \mathbb{R}^dであれば、平行移動した E+xもまた基本集合である。

 E= \bigcup_{i=1}^n B_i^*より、

 E+x=\bigcup_{i=1}^n (B_i^*+x)

 B_i^* は矩形なので、d個の区間 I_{i1},I_{i2},\cdots I_{id}の直積に等しい。
 I_{i1}=[a_{i1},b_{i1}]などと置くと、
 I_{i1}+x=[a_{i1}+x,b_{i1}+x]

よって E+xは区間 I_{i1}+x,I_{i2}+x,\cdots I_{id}+xの直積を取った矩形 (B_i^*+x)の和集合に等しい。

よって平行移動したものもまた基本集合。