バナナでもわかる話

開設当初は計量経済学・統計学が専門の大学院生でした。今はデータを扱うお仕事をしています。統計学・経済学・投資理論・マーケティング等々に関する勉強・解説ブログ。ときどき趣味も。極力数式は使わずイメージで説明出来るよう心掛けていますが、時々暴走します。

【初心者向け】より現実に即した株式価値の評価方法

前回の記事では、企業の成長を考慮することで、将来の配当を仮定し、株式価値をモデル化するといったことをやりました。

bananarian.hatenablog.com


しかし、前回の記事では次のような疑問点がありました。


「「成長企業から成熟企業に変わったらどうするんだ」」

「「成熟企業から、また成長企業に転ずる可能性もあるだろう」」

この点を考慮したモデルを今回は考えてみます。


前回の復習

企業の配当に関する成長率として、適当な割合 gを仮定する。

この時将来の配当 Dの予想は次のようになりますね。

 D_2=D_1(1+g)
 D_3=D_2(1+g)=D_1(1+g)^2
....
 D_n=D_1(1+g)^{n-1}


そこでこの予想を配当割引モデルに代入します。
bananarian.hatenablog.com


 D_1(\sum_{i=1}^{\infty}\frac{(1+g)^{i-1}}{(1+k)^i})=\frac{D_1}{1+k}(\sum_{i=1}^{\infty}\frac{(1+g)^{i-1}}{(1+k)^{i-1}})=\frac{D_1}{k-g}

ただし、 k>g

これを定率成長モデルと呼びました。



定率成長モデルに対する疑問

端的に言うなら、 gが固定されているのは問題ないのか???という話です。

まあ g=0.001 g=0.002にかわるくらいは誤差の程度にような気がしますが、

 g=0.12 g=0.002に変わった場合は、結構変化しているように思えます。



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市場の成熟

一旦、株や投資の話を忘れて、市場というものについてのイメージを持ちましょう。

例えば、カルビーのポテトチップスの売り上げを見てみます。
下の図はネットで公表されているカルビーグループの決算説明会における資料の切り取りです。
ここのページ(https://www.calbee.co.jp/ir/pdf/2011/kessansetsumei_20110510.pdf)の3ページ目です。

f:id:bananarian:20180916175609p:plain

水色の部分がポテチの売り上げ高の推移です。

1970年代の真ん中あたりから販売を始め、そこから急激に売り上げを伸ばしていき、1980年代真ん中あたりまで上昇を続けています。

それ以降は80,000百万円あたりで売り上げが停滞しています。



つまり、
1970年代から1980年代までは、ポテトチップスは成長産業で、カルビーがどんどん市場を開拓していくことで、市場が拡大していった。
1990年代頃はポテトチップス産業は成熟産業に転じ、これ以上市場を拡大することが難しくなった。

ということです。
なんとなく想像できますよね。

日本中の人口が極端に大きく変わらないとして、ポテチを食べる人の割合が2018年の今頃急に変化するなんてそうそうありませんよね。


このように、成熟した市場を扱うか、成長中の市場を扱うかでその企業の成長率や配当の成長率も変わってきそうです。



多段階配当割引モデル

そこで、例えば 1期からN_1期を成長期、 (N_1+1)期からを成熟期と仮定してみます。
成長期の間の配当の成長率を g_1,成熟期の配当の成長率を g_2とおいてやることにします。

 g_1>g_2


このもとで配当割引モデルを導いてみます。

 \sum_{i=1}^{N_1}\frac{D_1(1+g_1)^{i-1}}{(1+k)^i}+\sum_{i=N_1+1}^{\infty}\frac{D_1(1+g_1)^{N_1-1}(1+g_2)^{i-N_1-1}}{(1+k)^i}

ちょっと複雑に見えますが、定率成長モデルの導出と同じです。
途中から成長率が変化しただけですね。


これは、二段階の成長パターンを反映したので二段階配当割引モデルと呼ばれます。

当然、もっと段階を増やすこともできます。



多段階配当割引モデルの注意点

段階を増やしすぎたり、現実離れした仮定をおいてやると、現実の株価パターンから著しく乖離する可能性があります。

だから、その辺の仮定は扱う企業に則してうまく置かなければいけません。


もう一つ、これはモデル一般の話になりますが、モデルはあくまで減少に対する近似であって、仮定が妥当かどうかは常に検討しなければいけません。




そういうわけで、モデルに対して仮定をおくということについては細心の注意を払わなければなりません。



こうした仮定を廃するために、将来の配当に対して過去の配当との関係式をおくのではなく、財務データから予測を行ってみるといったモデルも考えられます。

次回はその予測を交えたモデルについて考えてみようと思います。